院長ブログ
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非常に残念な気持ちになった話です。

 

一年ぐらい前に小さな洋食屋さんが開店しました。

 

何がすごく美味しいというわけでなく(失礼…。)

いつも空いていて居心地が良く

禁煙というわけではありませんが

他に喫煙されるお客さんがいた場合は、他の席が空いていても

わざわざ奥の個室を開けてくれてくれたりする

物静かな、そして低姿勢なマスターが1人で切り盛りするお店で

家族でお邪魔することも度々ありました。

 

ある日、娘があのお店のピザが食べたいと、家族で出掛けました。

あいにく2人の先客はヘビースモーカーのようで

マスターはいつものように個室に通してくれました。

 

生春巻きに、チーズのピザ、ミートソース

そしてポークカツレツのデミグラスソースがけを注文。

 

「ウチのピザは生地から作るのですが、あいにく今日はデキのいい生地が出来ていません。

ピザは少し時間をいただくかもしれません。」

 

とのこと。

 

ほー。そうなんだ。

 

「わかりました。美味しい物をいただきたいので、宜しくお願いします。」

 

しかし、先客があったためか、1人で切り盛りするせいなのか、なかなか料理が出てきません。

生ビール2杯に、ハイボール。

空きっ腹にはしんどく、酔いも回ってきてしまいました。

 

ようやく生春巻きが運ばれて来たのはいいのですが、次が出てきません。

2杯目のハイボールの注文するとき

 

「申し訳ありません。子供がお腹を空かしてしまっています。

先にミートソースを持ってきてはいただけないでしょうか?」

 

「それは出来ません。」

 

私はこんな返事が返ってくるとは思わず、一瞬耳を疑いました。

 

「料理には出す順番というものがありますので。」

 

「そうですか…申し訳ありません。それでは、何か早く出来る物はありませんか?」

 

「そのようなものはウチにはございません。

早く召し上がりたければ、コンビニの物でもいいわけじゃないですか。」

 

マスターは部屋から出て行きました。

私たちはあっけにとられたまま顔を見合わせました。

 

数分後、ピザが運ばれてきました。すると

 

「ウチの料理を引っかき回されるようでしたら、他のお店に行っていただいて構いません。

私もプロです。プロとしてのプライドがありますので…。

今日のお代は結構です。」

 

そして部屋を出て行きました。

 

2人の子供達は寂しそうにピザを食べていました。

 

妻は

「今日は虫の居所が悪かったのよ。前のお客さんが原因じゃないの?」

 

冗談じゃない。何がプロですか。プロの料理人は料理を作ればそれでいいのでしょうか?

出された物を黙って食べろ、嫌なら来るなということでしょうか?

 

胃が痛い患者さんが来院されて

「先生、先週から胃が痛いのですが…。」

「ハイ、それは胃炎。お薬出しときますから。私はプロだからわかります。

お大事にしてください。次の方どうぞ。」

 

「先生、3日前から熱が出て、咳と下痢が…。」

「それは、風邪。私はプロだからわかります。お薬出します。次の方どうぞ。」

 

こんな医者に診てもらいたいでしょうか? 腕がいい医者がイイ医者でしょうか?

ストレスを抱えていないか、タバコ、暴飲暴食はないか

胃が痛いのは食後だろうか、食前だろうか?

下痢は水溶便なのか、軟便なのか、いつもと色調の変化ないか…。

 

病は気からという言葉があります。

 

病気を診断する上で、症状を問診してからいくつかの疾患を思い浮かべ

消去法で絞っていき、診断をつける。

すぐ見当が付くときもあれば、難渋する場合もある。

しかし、自分で自分の病気を作り出してしまっている症例を日常、非常に多く経験します。

 

患者さんの社会的背景や家庭事情

その他諸々の広い意味での ” ストレス ” が

今の症状を引き起こしてしまっていることがあるのです。

もちろん、お薬が必要なときの方が多いですが

場合によってはお話を聞いて差し上げるだけでみるみる顔色が変わり

元気に帰宅される方も多いのです。

 

それを導き出してあげられるのが、いい医者です。プロの医者です。

 

大腸内視鏡を5分で終わらせる医者が

胃の手術を20分で終わらせる医者が

白内障の手術を5分で終わらせる医者が

お産を無痛で終わらせる医者が、いい医者ではないのです。

 

私は外科医です。大学病院勤務時は消化器外科を専門にしていました。

患者さんが苦しい、痛い、辛いと訴え来院されれば

疾患を診断し、手術法を決め、体位を決め、手術をし、術後管理をする。

 

最悪、癌が進行し、化学療法や放射線療法が必要になる場合も

副作用に対する全身衰弱に耐えうるBestな治療法を選択し

元気に病気が治り、元気に退院、通院出来るようにする。

 

場合によっては、手遅れになってしまっている症例にも最後まで全身全霊を尽くす。

それが、ごく、ごく、ごく普通の医者なんです。

 

申し訳ありませんが、料理の味、店構え、内装、雰囲気で店を決めたわけではありません。

あくまで、その時間を過ごさせていただく、居心地の良さでお邪魔させていただきました。

 

残念ながら、もうお邪魔することはありません。

 

子供達も

「もう、おじさんのピザ食べられないね。」

と言っています。

 

「大丈夫、お父さんね、実はもっと美味しいピザ屋さん見つけたんだ。」

 

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